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そんなことは至極どうでもよかったんだけど、この曖昧な距離と、立ち去れない心がイライラとしてきて堪らず舌打ちをした。
「あなたも、ここに来てみたら」
「……は?」
「死ぬ訳じゃない、生きたいからここに立つの」
「……意味わかんねぇし」
顔も見えずに、話しかけられた僕はこの時少しだけ彼女がどんな顔をしているのか気になった。フェンスを頼りに立ち上がると、彼女がいる場所まで歩き出す。なんで、話しかけられて気味悪いのにこうまでして彼女の顔を見たいと思うのだろう。それは多分、この掠れた彼女の声を聴いたことがあったからだ。
「気を付けて、勢いつくと落ちるわよ」
「……ん」
この世に嫌気が差していたのは本当だ。死にたいわけでもなく、生きたいわけでもなく、ましてやそのどっちでもない僕がここに立つ資格もないんだろうけど、この灰色の空は、何故かそれを拒んだ気がした。
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