プロローグ

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 僕は再び彼女の手を取り走り始める。  僕の頭の中に彼女のアイデアが生まれた場所を目指した。 「走るって気持ちいいのね」  すでに血色の悪くなり始めた彼女は、それでも笑顔でいてくれる。 「でも苦しいだろ?」 「気持ちのいい苦しさ」  一目でいい。見せてあげたい。ただその一心で僕らは走り続ける。 ……街を抜けた。 ……川を渡った。 ……風を頬に受けた。 ……顔を見合わせ笑った。  僕らは生きている事を実感した。 「データで頭に流れ込んできた感覚とは違うのね」  無邪気に笑う彼女が痛々しい…… 「そうなんだ。僕はその間違いに君を見ていて気付いたんだ」 ―――― ……一向に収まらない世界中の宗教観の相違と、技術の発展に限界を迎えた人類は、僕のアイデアの具現化を渇望した。 《神を造る》  この一見馬鹿げた計画は、ある発明によって一気に現実味をおびた。 ――有機CPU――  通電性の高い特殊タンパク質の発見と、自ら状況に合わせ増殖していくその特性……及びある特定の命令信号を与える事で、任意の基盤配列に定着する性質……これらを有機質CPUとして利用出来た事で、処理速度に限界の無くなったコンピューターは世界中のありとあらゆる知識、情報を吸収出来るようになった。  それに留まらず、人間の一生分の情報を人類60億人分全て取り込む事も可能となった。 ―――― 「……結局、僕の考えは空想のままにしておかなければいけなかったんだ……」 「でも、それで私はマサルと笑う事が出来たわ」 「結果君を……命を弄ぶような行為になってしまった……すまない」  彼女はすっかり青ざめた顔をいっそう笑って見せた。  代謝が行われていない証拠であるアザも皮下組織に現れ始めた。 ……残りの時間は僅かだということは判っていた。
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