‐鏡‐

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   いつ、どこでなんて事は全く覚えていないが、一人であった事は確かだ。不意に鏡に映った自分の表情にひどく衝撃を受けた事がある。  帰りの電車でたまたま相席した正面の美人が、あれと同じ性質の表情で退屈そうにしていたからか。それともただ単に好みだったからかもしれない。気が付けばこんな事を言っていた。 「同じですね」  俺がここに座った時から美人は窓の向こうを眺め続けていたが、俺の突拍子もない一言に反応したのか視線だけをこちらへ寄越した。黒い瞳が俺を捉える。暖かみを感じられない目と視線が合った瞬間、驚きだとか、恥ずかしさで胸が苦しい程に高鳴った。 「いえ、あの。突然すみません」 「いつ見ても何もないし変わらない。同じなのは当たり前」  この女性はきっといくつか年上だろう。同年代にはおそらく有り得ない落ち着きがある。 変な子供に話し掛けられた、と思っているに違いない。突き放すような、冷ややかな声がそれを表していた。
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