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「この夏休みってさ…どうやら宿題が1つだけらしいぜ!?楽勝だべ!?」
暑さで参った先程の顔とは打って変わり、ニヤニヤしながら俺に対して、さも特ダネを仕入れた記者の様に原田は言ってくる。
「あぁ…。俺も噂じゃ聞いたけど…いくら何でもそりゃ無いだろ!?」
どうやらこの特ダネを仕入れた輩は原田だけじゃないらしく、夏休み前日と言う相乗効果もあり、クーラーなんて文明の利器など設備されてないムシムシした極暑教室にも関わらず、教室はいつも以上にガヤガヤと騒ついている。
しかしまぁ、人生を左右する中学三年の大切な夏休みに、宿題が1つだけとはねぇ…
ゆとり教育の極みだなコリャ…大丈夫かよ日本の将来はさ~。
そんな事を考えてたら、俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「なぁ~に男二人がコソコソ喋ってニヤニヤ笑ろてんねん!ホンマ気持ち悪いわぁ~。あ~キショ!あ~キショ!!」
誰も呼んでもいないのに、俺たち二人の会話に割り込み、わざわざご丁寧な嫌味をケラケラ笑いながら言うコイツは、俺の左前に座る坂井香織。
これでも一応女子。
クリッとし、コロコロとよく動く丸い瞳に、それ以上によく動くサクランボ色の形の良い唇。
いや…よく喋る口の悪い唇と言った方が的確か…。
身長はさほど高くはなく、髪型は男勝りなベリーショート。
本人曰く「いちいちセットすんのが面倒くさいねん!アホ!!」
らしい……。
性格は、想像通りの勝ち気なじゃじゃ馬浪花娘だが、意外と涙もろく世話好きな奴で、いわゆる姐御肌ってヤツだろう。
中学二年の春に、大阪から転校して来た訳だが……
「あ゙ぁ!?誰もてめえにゃ喋りかけてねんだよ!いちいちしゃしゃり出でくんじゃねえ!この男女がッ!!」
「まぁ~キャンキャンよう吠える焦げ茶色の犬や事。アホな犬ほど、よぅ吠えるっちゅーねん!」
説明不要、原田とは犬猿の仲である…。
「ちょ…ちょっと、落ち着いてよ二人ともぉ。かぉ…暑くてイライラするのも分かるけどさ…ちょっと言い過ぎだよぉ?…ねっ?」
「せやけど真由…コイツらがアホみたいな噂を信じてんのがイラッとすんねんイラッと!」
コイツらって…俺は別に信じてないのだが…。
まあいいや、いちいち反論してたら更に面倒くさい事になりそうだしな…。
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