餓鬼講習

5/11
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
そんな獣達が目で威嚇し合っている姿を、俺もクラスメイトと同じく呆れ諦めながら眺めていると、明らかに前方から感じる視線… 「お願い。二人を止めて…」と訴えかける無言の視線。 まるで刺す様な視線の方向をチラと見ると、桜川さんの目には、新緑の葉に纏う朝露が如く泪の薄化粧。 これは………反則だろ。 「涙は女の武器」なんて良く言われるが、全くもって………その通りじゃん。 それが桜川さんだと、武器なんて甘っちょろいモンじゃなく、むしろ兵器だ。 特に、自分が好きな女の子の涙なんてモンは、核兵器と同等の破壊力だぞマジで…。 俺の胸は、桜川さんに聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまうぐらい、その可愛過ぎる涙顔を見て、一瞬のうちに高鳴ってしまった。 此処で桜川さんの期待に応えなきゃ男がすたる! そう思った俺は、先ほどの呆れ諦めた情けない顔から、まるで戦地に向かう兵士かの如く表情を引き締めて、今まさに熾烈な闘いを初めようとせん猛獣に向かい、獅子の咆哮を放つ為に勢いよく椅子から立ち上がった! 「お前ら!い…」 「賑やかだねぇ~~お二人さ~ん。夏休み前でテンション上がんのも分かっけどさぁ~。ちと夏祭りするにゃ~時期早いんじゃねの?それとも得意の夫婦喧嘩ってか!?」 香織の机にトンッと軽く片手を突き、まさに一触即発状態の獣達に割って入り、ニヒルな笑みを浮かべながら軽く冗談を飛ばす優男。 そんなコイツの名前は瀬尾雅人。 「人生、適度にテキトー」がモットーらしく、誰の下にも着かず誰にも媚びず、気の向くままに行動するその姿は、若干15歳にして人生を舐め切ってる様にも見えるが…キメる所はキメると言う、何とも憎たらしい奴だ。 その性格も印象的だが、更に印象付けるのが学年でも一位二位を争う高身長と、中学生には見えない大人びた容姿だろう。 少し目尻の下がった色気のある目、その横にある泣きボクロが更に妖艶さを醸し出し、男の俺でも時折ドキッとしてしまう事も…… いや!なんつーかその、特別な意識ってのじゃなくて、男としての魅力って言うかその……あぁ!もう!! とにかく俺は桜川さんの事が好きな普通の男子で、瀬尾は色男って事!そういう事!! ふぅ……しかし瀬尾が言った夫婦喧嘩ってのはマズいんじゃないかな…。 こんな言葉を冗談と受け止めて軽く流せない輩が…
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!