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ノワールの表情が強張り、なにとも言えないような思いが胸を巡った。
「死神は怖いよ。でも君は女の子みたいで可愛いから、全然平気」
「………………は?」
思わず腑抜けな声を出す。
先程の緊張感を返せと言わんばかりに脱力したノワールに、セオドアは続けた。
「だって、お話に出てくる死神はガイコツの顔なんだもん。そんなの怖いよ。でも、何だか君人間みたいだね。どこが違うの?」
「……死神は、歳取らない。耳も違う」
紅い髪を掻き上げると、先の程よく尖った耳が見えた。
「え!え!すごーい!触っていい?」
「別に、いいけど」
目を輝かせ、ふにふにと耳を触る。
少しくすぐったく、少し恥ずかしくなった。
「もういいだろ!」
「すごいなぁっ」
ムッとした表情を変えることなく、ノワールは睨むようにセオドアを見た。
「お前、変な奴」
「どうして?」
「死神なんて、奴隷と同じだぞ」
俯きがちに話し出す。
「事故とかで死なれちゃこっちが困るのわかってるんだ、だから面白がって自殺しようとしたりする。人間なんて信用ならない」
ノワールとは反対に、セオドアは微笑む。
「ねぇ死神さん」
「ノワールでいい」
低い声で言われたが、小さく笑った。
「僕を信じてよ」
弾かれたように、顔を上げた。
「…え?」
セオドアは表情を変えない。
「君が死神でもそうじゃなくても、僕が今日君に会うことはきっと決まってたことなんだよ。僕は運命を信じてる。君と僕はもう、知らない者同士じゃない。そうでしょ?」
少し傾き始めていた太陽が、セオドアの笑顔を照らしていた。
「……俺は信じない」
「そっか」
残念、と困ったように笑う。
遠くからアレッシオの声が響いた。
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