#1 大樹の下で

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「あのー大丈夫ですか?」 さっきより強めに揺さぶる 突風が巻き起こる 足を踏み締めていなければ 本当に飛んでしまいそうなくらいの風 樹も葉を揺らす 思わず目を手で覆った 風が収まったのを感じて手をどける すると、目を閉じていたはずの彼の 吸い込まれてしまいそうなくらい 深い緑色の瞳が前髪の間から見えた その目は伏せられていた どうやら焦点があってなくて どこも見てはいないようだった 「あのぉ・・・・・」 「おれ・・・・は・・・・まもッ・・・・・・・・・」 おもむろに立ち上がる彼 「だ・・・めッ・・・・・・・・たす・・・・ける」 何か呟いているみたいだけど 小さすぎてうまく聞き取れない と思ったら、また風が吹いた 今度は優しい風 ドサッ 風に押されたかのように フラフラと倒れてしまった彼 「えッ・・・・ちょ大丈夫ですか!?」 慌てて駆け寄って、抱き起こす 体は何故か冷えきっていて 何となく放っておけなかった ・・・・・・・連れて帰る? 美しく整った顔は 悩ましげに眉を寄せていた 気付けばバンビも姿を消していて 樹の下で彼と俺だけが 静かに息をしていた .
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