楔をこの胸に

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 戦争を始めて約20年。  初期アンドロイドである陽は、ずっと戦い続けている。  憎しみは、もちろんある。  裕福な人間や、権力のある人間のみが絶望の地球から抜け出し、新地球へ逃げた。  それから、旧地球は地獄だった。  食料がない。  住むべき大陸がない。  人は心が酷くすさみ、あまりの空腹と虚無に殺し合いだってあった。  アンドロイド化だって、並大抵の苦しみではない。  陽の両親は、アンドロイド化を体が拒絶。死亡した。  その姿を今でも覚えている。  体中の血管が破裂し、血にまみれ、涙の代わりに血を嘔吐を垂れ流し、醜く死んでいった。  陽は、その恐怖に怯え狂いそうな中、アンドロイド化の手術を受け。  拒絶まではいかなかったが、変異はあった。  数日焼けるような熱におかされ、眠れぬ日が続き。  嘔吐を続け狂ったように叫び続けた。  そして気がついたときには、黒かった髪は銀髪に、黒かった瞳は青になっていたのである。  憎しみは、ある。  ないわけがない。  死んでいった両親の恨みや、自分の苦しみ。  しかし、20年。  そう20年の間、新地球の人間を殺め、仲間を失い続けてきた。  本当に正しいのだろうか。  この戦いに終わりは来るのだろうか。  幸せは、いつ訪れるのだろうか。  漠然とした疑問と、不安。  それでも世界の空は青く、今日も戦争は起こるのだ。  ああ、この世界は残酷だ。  そう、彼は今日も嘆くのだ。
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