一章:黒革の手帖

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 モスキーノの手帖と私自身、それからほんのすこしの秘密、それが私が持つ最高の武器だ。 この世界の女たちは皆一様になにかしら武器を持っている。それは客に向けるのではなく好敵手に、我が身に向ける、それが銀座の作法である。  さて、そのようにバラエティーに富んだ女たちがこのアンダーグラウンドにやってくる理由というのも様々なものだが、それでも私の理由はちょっとばかり常とは違うものであると我ながら思う。 ずいぶんと陳腐な理由だが男を殺したかったのだ、故に私は初潮が来たその日に生まれ育った家を飛び出した。 殺したかった男は浅野武仁といい、私の叔父であり義父であり、私の父母を殺した。 私の父は日本有数の企業である浅野コーポレーションの社長をであった。父の弟である武仁は父の会社を継げない身の上であった、父はまだまだ働き盛りであったし万一の時も私がいたから。 父はある日武仁に上手く殺されてしまった。愚かな警察は父の死を事故死とし、母の日を自殺とした。 父母の葬儀が終わるや否や武仁は言った 「お前の親父とお袋は俺が殺した。」と。 そうして何故私だけが殺されなかったのかを理解したのだった。それから間もなく叔父と新しく妻になった藤子姉さんに引き取られることになった。この奇妙なままごとのような家族であったが姉さんは私に良くしてくれたのだった。
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