男の事情

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娘が生まれる少し前に引っ越してきたこの家で俺が幽霊を見るようになったのは、引っ越した日の夜のことだった。 身重の妻には引っ越し作業はさせられず、実家にいてもらって引っ越し会社と俺だけで荷物を運んだ、久しぶりのひとりの夜のことだ。 初めは驚くばかりだったが、だんだんと慣れ、妻はもとより赤ん坊の娘も機嫌よく暮らしているので心配はいらないか、とここに住むことを納得した辺りで、幽霊に話しかけた。 その時も向こうはパニックで、会話らしい会話は成り立たなかった。 今は少し落ち着いたらしい。 このまま自分の死を受け入れて、行くべきところへ行ってくれれば、こちらとしても娘を今後育てるのに安心なのだが…。 さて、そう上手くいくものか。 上手く行かなかったら…。また引っ越すしかないだろうか。 そうしたらサッカーには行けなくなるだろう。彼女に会うのが今の俺の楽しみなんだがな…。 やっかいな事情、しかも家族にも言えない俺の事情…。
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