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駅の改札から出ると、かすかに潮の香りがした。
「そっか、海近いんだっけ」
ボストンバッグを下ろしながら香坂伊織はつぶやく。考えてみれば駅名も海に因んだものだった。
待ち合わせをしている従兄弟を探してあたりを見回してみるが、それらしい人物はいない。
リストバンドの上から巻いた腕時計を見ると、待ち合わせをした時間までまだ少し余裕があった。
(電車の到着時間ちゃんと言っとくんだった…)
伊織は駅の柱に寄りかかり、改めて駅の周辺を見回してみる。
まず目に付くのは目の前の大型スーパー。相当歩くのが遅い人でないかぎり駅から徒歩0分でたどり着けそうだ。おそらく近隣の住民はみなここで買い物をするのだろう。
自分の気に入る服屋があるかな、とちょっと考えてみた。ここに来る前に行きつけにしていたショップがあったのだが、ここにその支店があったかどうかを伊織は知らない。
そしてその大型スーパーの向こう側にはいくつか高層マンションが建っている。さまざまな高さのものがあり、一番高いもので30階ほどありそうだ。
伊織が今日から住むのは一軒家のはずであり、マンションの群れを見ているとこの街のどこにそんなものがあるのかと少し不安になってくる。
(マンションとマンションの間にぽつりと建ってたりしたらやだな。居心地悪すぎ)
他には駅のすぐ右手にはロータリーがあり、他にも銀行やら何やら、とりあえず生活に必要な施設は一通り揃っているようである。
あまり都会すぎず、かといって田舎くさくもない。そんな印象を受けた。
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