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「伊織!!」
退屈し始めたところで名前を呼ばれ、声のした方に顔を向けるとこちらへ向かって走ってくる青年が目に入った。
年は20代後半。身長が高く180以上はありそうだ。適当に伸ばした黒髪を無造作にひとつに束ねている。
シャツにジーンズ、足元はサンダルとずいぶん気の抜けた格好をしているが、よく見れば目鼻立ちがはっきりしており男らしく、それなりの格好をすれば街行く人が振り返るくらいにはなりそうだ。
片手にスーパーの袋を提げている。どうやら駅から徒歩0分の大型スーパーのもののようだ。
「えーっと、カズ?」
伊織は待ち合わせをしていた人物の名前を恐る恐る呼んでみた。
従兄弟とはいえ会うのはかなり久しぶりだから顔なんてほとんど覚えていなかった。もし人違いだったらとんだ大恥だ。まぁ、自分の名前を呼んだのだから間違いないけど。
「おぉ、俺。一輝!伊織、久しぶりだな~」
人懐っこい笑みを見せながら青年、一輝は伊織の頭をくしゃっとなでた。
「びっくりした。カズだってわかんなかったよ」
「そりゃ10年ぶりだからな。俺だって前もって写真もらってなかったらわからなかったよ」
「あぁ、プリクラの画像ね」
待ち合わせの時間等を決める際に、一輝に携帯電話でプリクラの画像をメール送信していたことを思い出した。
「送ってきた荷物はもう全部お前の部屋に入れといたから。着いたら飯の時間まで結構あるから整理するといいよ」
「うん、ありがと」
「…なぁ」
「何?」
「…大丈夫か?」
一瞬、一輝の声色が真剣なものに変わった。
一輝の言わんとするところを察して、伊織はできるかぎりの笑顔で、
「うん、大丈夫。私ここに来るのすごく楽しみにしてたんだよ?」
「そっか。ならいいんだ」
「うん、心配しないで」
それを聞いて安心したのか一輝はふっと肩の力を抜いた。
「じゃ行くかー。チャリとって来るから待ってて」
「車じゃなくて?」
「車出すほど遠くないんだよ。荷台にバッグ載せてやっから」
そう言って一輝は駅前の自転車置き場へ踵を返していった。
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