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故郷
故郷を考えてみた。それは生まれた町なのか。育った町なのか。
町。
僕は子供の頃から幾度となく引っ越しをしている。親の仕事の都合だとか、自分の都合だとかで。
25歳の時、同窓会の折りに地元、というのか中学生3年から高校生の4年間を過ごした町に戻った。
見るからに、建物よりも樹木が多く、山に囲まれている。
空気の澄んだ町だ。懐かしいというのか、記憶の引き出しにある街並みがよりはっきりと現れる。
くすんだ建物の壁、配管から流れ出た錆び。塗られたペンキ。料金のかからない駐車場。公園。中学校。元祖父母の家。
僕がこの町を出るとき、もう祖父母はいない。もちろん僕もいない。父や母は既に違う処に住んでいる。
記憶は僕の知らないところで蓄積されている。
今住んでいる集合住宅、ひとが入れ替わることを前提にしている。もちろん、僕も引っ越すことが前提になっている。
けれど、僕の故郷と呼べる町、生まれた町、その住んでいた家に違う明かりが灯っているのは、どうなんだろう?
同窓会で旧友と会う。積もる話を語り合う。近況、思い出、大人びた表情、格好。あぁ変わったなあ。僕の知らない時間の蓄積を紐解いていく。僕の故郷には残り香しかない。僕の故郷はひとの記憶の中にある。
今さらながらにひとなんだということに気が付く。
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