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――6時――
亜紀は、タイムカードを押し、同僚達に軽く声をかけてから、早足で会社を出た。普段は、遅くまで仕事をしている亜紀が6時ぴったりに帰るので同僚達はみな不思議そうに見た。
亜紀は、会社近くの輸入品等が豊富な高級スーパーに寄り、手際よく食材をカゴに放りこんでいった。
いつもなら自宅から五分とかからない大手激安スーパーにおつとめ品を買いに行くのだが今日は違う。
色とりどりのオーガニック野菜に、国産牛肉、ドレッシングも有名レストランの物を選んだ。
今日は特別なのだ。
レジを済ました時、携帯が鳴った。
着信画面を見て思わずにやけてしまう。こんな顔は同僚には絶対に見せられない。
「はい…」
亜紀が出ると、電話の向こうから、寛(ひろし)の声がした。
「悪い、会議が思ったより進まなくて10時頃になりそうだ。どうしよう。」
寛はいつも、亜紀が何時までだって待っているのをわかっている上で、どうしようと聞いてくる。
「ん~今日辞めたら、次はいつ予定があわせられるかわからないから待ってるわ。ご飯食べると思って食材も買っちゃったし。」
亜紀もあえて素直に会いたいとは答えない。
予定だって寛からの誘いがいつあっても大丈夫なようにスケジュール帳は真っ白なのに、いつも忙しい振りをする。
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