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「そうか。じゃあ10時までに行けるようにするよ。
じゃあ、また後で。」
「ええ。」
電話を切った後亜紀は、一緒にいる時間が少なくなったことを寂しく感じながらも家路を急いだ。
亜紀の家は、オートロックのワンルームマンションで、駅から五分の距離だ。
少し収納が少ないが、立地と家賃を考えると満足している。
家につくと早速料理を始めた。今日はビーフシチューに、10種類の野菜を使ったサラダ、ちょっと変わったチーズなども用意している。ワインも奮発して、酒屋で勧められた、フランス産のものを用意している。
8時にはテーブルセットもでき、後は寛が来るのを待つだけだ。
寛が来るまであと二時間もあるので、亜紀は部屋の掃除やら、寛の部屋着を用意したりした。
誰かのために一生懸命何かをすることは楽しかった。
――9時50分――
亜紀の部屋の鍵が開いて寛がはいってきた。
亜紀は寛に合鍵を渡しているのだ。もしかしたら寛が来ているかもと毎日期待して帰るが、約束の日以外合鍵が使われたことはない。
亜紀はおかえりなさいと言いたいのを抑えて、
「いらっしゃい」と言った。
かける言葉を考えなければいけないのは、寛が妻帯者だからだ。
「ああ。今日はほんとにまいったよ。あのプロジェクトは問題ばかりだ。」
ネクタイたいをゆるめながら、寛が愚痴をこぼした。
「そう。あなたぐらいの立場になると大変ね。今日はおいしいご飯とワインがあるから、元気を出して。」
亜紀は寛のカバンを預りながら、食卓まで誘導した。
「そうだな。腹が減って死にそうだよ。亜紀の料理はおいしいからな。」
豪華な食事を目にすると、寛の機嫌も幾分よくなった。
亜紀はワインをあけるよう寛に頼み、手際よく暖めた料理を並べた。
二人は食事をしながらこの一週間のできごとを報告しあった。寛は家族の話題は絶対に出さない、亜紀も忙しい振りをしているだけで本当はずっと家にいるのだから、自然と二人の会話は仕事がらみの話になる。
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