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―23時50分―
寛が静かにベッドから立ちあがった。
寛が帰る支度をするのは毎回同じ時間だ。
終電の時間―。
24時15分には亜紀の部屋を出ないと寛は自宅に帰れない。
(乗り遅れて帰れなければいいのに…)
亜紀は抱きついたりして毎回寛の支度を邪魔する。
寛は亜紀の手を上手にすり抜けながら手際よくスーツを着ていく。
きっと寛の頭の中では亜紀の邪魔が入ることも計算ずくでの時間配分だろう。
「愛してる?誰よりも?一番?」
「ああ、愛してるよ。一番だ。」
「ふぅん。一番ってことは二番目とか三番目もいるってことなのよ…」
「君がそういう聞き方をしたからじゃないか。亜紀だけだよ」
(奥さんをもう愛してない?私だけ?じゃあどうして離婚しないの?)
亜紀は聞きたいけど聞けない言葉を飲み込んだ。
少なくとも今日は。
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