暗の事

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ふと気が付くと、隣に、と言ってもかなり離れた位置にいたが、桜の柄の派手な着物を着た男が同じように川を見つめていた。 煉次郎が気付くとほぼ同時に男が口を開いた。 「おはんが、この前から言いよった岩渚か?」 「ええ。と言うことは貴方が武市先生ですか?」 煉次郎は若干姿勢を改めて返事をした。 「いやいや、おいどんは田中新兵衛。巷では人斬りと呼ばれてるがな。」 煉次郎は端から見ても分かるほど驚いた顔をして、刀の柄に手をかけ、警戒するようにして続けた。 「ということは、貴方が人斬り新兵衛ですか?」 「まあまあ、そんな身構えるなや。確かにおいどんが人斬り新兵衛にごわす。」
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