あおぞらのにおい

お正月

『虫歯になったら嫌だろ』

『嫌』

私は裸足の足を、
洗面所の床の
小さい足が書いてあるマットの
足のところにぴったり乗せて
歯磨きをした。

『来年の目標たてたか？』

『立ててない』

私はもごもご言った。

『早寝早起きは？』

『できてるもん』

『ちゃんと歯磨きする』

『いつもはするもん!』

私は歯磨きを忘れて
ムキになった。

『じゃあご飯をいっぱい食べる』

私は、食が細くて
ご飯をほとんど食べなかった。

『いいもん、いつか
大きくなるもん、
ママがいつも…』

私はハッと口をつぐんだ。

『メイ？』

私は顔が熱いのを自覚しながら
黙って歯磨きを続けた。

ママのこととか、
ほんとの家のことは、なぜか
言ってはいけないことな気がした。

キャンプで生活するには、
家を忘れなきゃいけないような、
そんな気がしていた。

忘れようとした訳じゃなくても、
思い出さないようにしていた。

思い出したら寂しくなると
本能で分かっていたのかもしれない。