凶暴女、って誰!?

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「で、ホントのところはどうなんです」 にんまり楽しそうな粕谷の頭を軽く叩いて「友達以上、親友以下」 どきっぱり。 うわ、救われねー。 小声の男の頭を、今度は若干力を込めてぶったたいて。 「重傷者が出ない内に見つけないと」 叩かれた頭をさすりながら「何ですか、それ」 「酔って理性が吹っ飛んでる間は、『無敵のヒーロー』なんだとさ」 「…なんですか、それ」 「現物見れば、解る」 それを見たら…『ゴリラ女』呼ばわり確定だろうが。 「女の趣味、変わりましたねー」 「しみじみ言うな」 一番本人が納得いかないんだから。 苛立ち交じりに蹴りつけて、店を出た。 ま、なんだ。 斎藤さんの毒牙に掛からなかっただけ、いいか。 そう思うことにした。 夜の歓楽街から一本外れた道。 「いつも、ごめんな」 「何言ってんだよ、政樹。どうせ明日の仕事だって一緒なんだから」 からから笑う茶髪長髪の、政樹と並んで歩く青年。 「にしても、何かあったのか?」 「『何か』って?」 「んー、何というか」顎に人差し指をすりすりしながら「今日の演技が妙に板についていた、っつーか」 『今日の演技』? 「別にいつも通りだろ、昂(すばる)」 「いや、ほら、女の子を好きになりかけている時のセリフ回しがさ、妙にリアルに聞こえてさ」 「はあ?」 何を言い出しているんだか。思わず、まじまじと友の顔を見詰めてしまった。 「…お前、耳鼻科に行った方がいいぞ」 「あれ? 違ったか?」 納得していない表情の昴を置いて、さっさと歩き出せば。 「やだ! 放して!!」「帰ります!! どいて!!」 女の子の甲高い声。 「またかよ」 繁華街と路地一本違う道は、そのまま突き進めば怪しいホテル街。 酔って連れ回された女の子達が、ようやく我が身の危険に気付く場所。 斜め前の現場には、二人の少女を取り囲む複数の男。 男としては、そう簡単に獲物を手放す訳がない。 「最初から警戒してなきゃ」 昴の独り言に近いセリフに黙って頷き、横をすり抜けて行くはずだった。 だった。 「男は女の子を苛めちゃいかんのだーっ!」 紫のドレスを翻し、乱入するなり手刀と蹴りでたちまち男達を地面に沈めた彼女を見なければ。 「…マジか」 それは、どうみても、『ハヤシバさん』でした。
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