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次第に俺の目にも涙が浮かび始める。
どんな育ちでも俺もまだ子供だったんだ。
「じゃあどうしたらいいんだよ!お前は俺に苦しみ続けろって言うのか!
うちはどうせ従者だ、主人の命令には逆らえないんだ!」
「違う!生きて、生きて幸せなことを見つけてほしいの!」
泣きながらにらみ合う二人。
ただ喧嘩をしている子供だが育ちが違う。
片や跡取りとして継げるように教育され、片や付き従い守るように訓練され育った。
どちらもその年の子供にしては賢しいものだった。
「じゃあ、あなたは私が殺さない。でも私が殺す。」
それは子供の屁理屈やわがままだったのかもしれない。
「何言ってるのさ。」
馬鹿じゃないの?そんなの矛盾してるじゃないか。
「これは命令です。私の従者として従いなさい。あなたは私が殺すまで死ぬことを禁じます。」
「え?」
殺してくれるの?
そう思ってしまった。
「だから、自分で死ぬとかお仕事で死ぬなんて絶対だめだからね!約束だから」
守りなさいよと小指を出してきた彼女はやはり子供で、でももう泣いてはいなかった。
目のふちにかすかに涙は残るものの、人を一人助けてやったといわんばかりに満面の笑みだった。
最初は殺してくれるんだと勘違いだったのかもしれない。
でもその笑顔に見とれて小指を出してしまった俺も結局は子供だったんだと思う。
あんなに嫌だった彼女の無邪気な笑顔が、違って見えた。
世界にあんなに綺麗で可愛いものがあるということを初めて知った瞬間だったから。
きっとそれは初恋で、どうしようもないことだったんだと思う。
それからすぐに俺は、彼女の笑顔を守りたいという気持ちでいっぱいになり、そのためなら死んでもいいと思うようになった。
でもそんな考えを見破るかのように彼女は
「私が殺すんだから、死んでもいいなんて思わないの。」
と釘をさすのだった。
あのころほど生まれを呪い、また感謝した時期はなかったと思う。
子供は容易で単純だ。
だからこそまっすぐに好きだと思えた。
主人と使用人というその関係が禁忌だと知るまでは…
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