61人が本棚に入れています
本棚に追加
-私の、可愛いヒト-
-貴女の、名前が好き-
現在、午後2時。
今日のスケジュールは、とっくに消化済み。
私としては午後いっぱいレッスンを続けるつもりだったが、律子(我らがプロデューサー殿だ)に
「過ぎたるは及ばざるが如し」
などと言われてレッスン場から追い出されてしまった。
ほぼ、半日の。
突然の休暇。
当然、何の予定もない。
で。
何をするでもなく事務所に戻って来て、
来客用のソファで自分の淹れたコーヒーをすすっている。
午後2時。
次の仕事の脚本をチェックする。
三度目。
春香が事務所の冷蔵庫に作り置きしてるババロアを取りに行く。
二度目。
コーヒーを淹れてくる。
四度目。
…壁の時計を見る。
八度目。
独り、には馴れているけれど。
さすがに。
事務所内で起こる物音が全て自分のものだけ、というこの状況には飽きていた。
ましてや。
普段なら誰かが2~3人居て。
かしましいのが当たり前の場所であれば尚更。
帰ろうかな。
帰って、声楽の本でも読んでいる方がよっぽど有意義な時間になる…そもそも。
なんで私は事務所に居るのだろう。
レッスン場から直接帰宅、という選択肢だってあったはずなのに。
なんで。
「お疲れ様です~…あら、千早ちゃん」
その声は。
ちょうど私の腰の形に馴染んでしまったソファーから立ち上がりかけたのを、座り直させるのに充分過ぎる理由になった。
「お疲れ様です、あずささん」
きっと。
この人が来る予感のようなものが私の中で働いていたに違いない…
それが、『なんで』の答え…きっと。
「千早ちゃん、今日はもう帰ったって律子さんが言ってましたから~誰も居ないかも、って思ってたんですけど」
ゆったりと笑み、対面のソファーに座るあずささん。
少し暑そうに片手で顔を扇ぎつつ。
「でも。千早ちゃんが居てくれて良かったです~」と、破顔。
嗚呼。
この可愛いヒトと。
二人きりになれるなんて…て?
そう言えば。
ふと思い付いた疑問をぶつけてみる。
「あずささん、一人でここまで来たんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!