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「………暑い…」
ユリカはぐったりしながらそう呟いた。額には汗が滲んで、重力に従って下へと落ちている。
今いる場所は、なんと砂漠のど真ん中。辺り一面砂ばかりだ。
そんなユリカとは対照的に、ユウキは平気そうな顔をしている。うっすらと汗は滲んでいたが、流れ落ちてくる程ではない。
「暑い暑い暑い暑い暑い………」
「砂漠だからね。もう少しで着くから頑張って」
「むー、何でこんな砂漠なの?さっきまでは緑がいっぱいだったのに」
むくれているユリカを苦笑しながら見て、ユウキは詳しく説明してやる。
「ここも、数年前は緑で溢れた土地だったみたいだよ。でも何がきっかけなのか分からないけど……急に砂漠化し始めたんだ」
「分からない?変なの」
そう言って、ユリカは口を閉じた。ユウキも足元の砂を踏み締めながら、黙ったまま東へと向かっていく。
二人が目的地に着いたのは、それから二時間後の事だった。
「………ユウキ」
「何?」
「それ、何?」
「かつら」
ユリカが不思議がるのも無理はない。今彼女の目の前で、少年が長髪のウィッグを手にしているのだ。
まさかユウキには女装癖があるのだろうか?と、ユリカは一瞬でもそう思ってしまった。
表情でそれを察したのか、ユウキは慌てて説明する。
「これはっ、この町のしきたりなんだよ!」
「はい?しきたりって?」
「実は……」
ユウキが言うには、ここクーラエルズではある伝説が遺されており、その伝説を基に十歳までの男子は外に出るときは女装をしなければならない、というしきたりが出来たそうだ。なんとも信心深い住人だ、と思ってしまう。
説明の間にもユウキは女装を完了していた。服装はそのままだったが。
意外にもユウキの女装は似合っていた。
「…ユウキちゃん、でも通用するかも……!」
「………お姉ちゃん、笑ってるでしょ」
「わ、笑ってない……!……ぷふっ……」
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