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キョロキョロと辺りを見渡すと、洗面所の片隅に踏み台があった。主にユウキが使っている物だ。
「んしょ……んしょ……よいしょっ…と」
踏み台を洗面台の前に持ってきて、台の上にのぼった。そのおかげで洗面台の蛇口に手が届く。
キュッと蛇口を捻って出てきた、ひんやりと冷たい水で顔を洗い始めた。
しばらく顔を洗っていると、意識がはっきりとしてくる。洗い終わったころには、すでに大きな瞳をぱっちりと開いたユウキが鏡に写っていた。
幼い顔に、母親譲りの栗色の髪と緑の瞳、華奢な体格で線が細かった。
「さてと。洗ったから、ご飯食べよ」
ユウキは行きとは違って、猛スピードでリビングまで戻った。その違いは、およそ五倍。
ユウキが再びリビングに入ると、すでに朝食が用意されていた。本日のメニューは、トーストと目玉焼き、それからハムエッグだった。
「わ~!おいしそう!」
「おかえり。遅かったわね」
「ぼーっとしてた」
「はあ……まったく…低血圧なんだから。そんなところはお父さんにそっくりね」
母親の呆れたような、そしてどこか諦めたような言葉だった。
ユウキは朝食を食べている間、ずっと無言だった。そこら辺はちゃんとしつけが行き届いている。
「……ごちそうさまでした!」
しっかり両手を合わせて言う。
自分が食べた物をしっかりと持って、ユウキはキッチンに向かった。しかし、これまた背が足らずに蛇口に指先が軽く触れる程度である。
見兼ねた母親がユウキの側に近づき、皿を受けとった。
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