5人が本棚に入れています
本棚に追加
「……私、部屋に戻る」
「ん?もう戻るのかい?脱走はしないでね」
「今日はもうしない……」
そう呟くと、ユリカは部屋から出ていってしまった。今になって気づいたが、この部屋はどうやら診察室らしい。
ずっとユリカが出ていった扉を見ていると、はぁ~っと重い溜め息を男性がはいた。
「…あの娘は、心を閉ざしてしまっているんだ。昔、辛いことがあってね………」
「僕は……聞かない方が良いですよね」
ユウキの大人びた言葉に、男性はかなり驚いたようだ。しかし、すぐに笑顔になる。
「君は、不思議な子だね」
「普通ですよ?」
「普通の子供は、敬語なんて殆ど使わないよ」
笑いながら男性は、褒めているのかそうでないのか良く分からない言葉を発した。
ふと、男性がユウキの両肩にそれぞれ両手を置いた。ユウキに顔を近づけてくる。
「君に頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
男性の行動に多少驚きながらも、しっかりと返事を返す。
相手はひとつ頷くと、話を切り出してきた。
「君に、ユリカちゃんの話し相手になって欲しい」
それを聞いたユウキは、今度こそ本当に驚いた。
しかし男性の表情は真剣そのもので、冗談ではないと理解した。
「どうして僕なんですか?他の人でも……」
「……いや、君に頼みたいんだよ」
ユウキの肩から手を離すと、男性は近くにあった椅子に腰掛けた。ユウキも促されて、椅子に座る。
しばらく黙っていた男性から、再び声が発っせられた。
「ユリカちゃんは、とある事情でこの病院に長く入院している。そして、入院中にも辛いことがあってね……心を閉ざしてしまったんだ」
「………」
ユウキは黙って続きを促した。
男性は近くにあったお茶で喉を潤し、また話し始めた。
「ユリカちゃんは、表情の変化を一切見せなくなったんだ。今まで、ずっと………。でも今日、意識を失った君を連れて来たとき、それから看病をしているとき……心配そうな、不安そうな顔をしていたんだ……」
最初のコメントを投稿しよう!