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「でも……」
それでも悩むユウキに、男性は両の手の平を合わせて、頭を下げてきた。
「頼む!ユリカちゃんの表情が変わったのは、本当に久しぶりなんだ!話し相手になってくれるだけで良いから!」
「………」
ユウキは何も答えず、真剣に考えこんでいる。
それから数分後、
「……分かりました」
「本当かい!?」
「僕にできることなんて、本当にちっぽけですけど………それでも、役に立てるなら」
「ありがとう…!」
男性は深々と頭を下げた。慌ててユウキが止めに入る。
それから男性は、座っていた椅子から立ち上がり、ユウキを手招きした。
「そうと決まったら、まずはユリカちゃんに挨拶しに行こう!」
「あ……はい」
そのままユウキは男性に手を引かれて、ユリカがいるという病室に向かった。
病室の中は意外に広く、男性がいなかったら迷子になっていたかもしれない。患者がちらほら見られ、中には幼い子供もいた。
ふと男性が、ある病室の前で立ち止まった。ネームプレートを見てみると、『患者一名 ユリカ』と書かれてある。
どうやら個室らしい。
「えっと……まずはユリカちゃんに挨拶と、難しいだろうができるだけ会話を繋げること」
「?…はい」
男性の言葉に疑問を持った。会話を繋げることがなぜ難しいのだろうか、と。
その答えは、病室に入ってから身をもって体感することになるのだった-
コンコンッ
「ユリカちゃん?入るよー」
中からの返事はない。しかし男性は気にせずに扉の取っ手を握り、横にスライドさせて開けた。
室内には、先程の少女ユリカと、質素なベッドがあるだけだった。申し訳程度に飾られている花が、妙に浮き出ているような錯覚に陥る。
ユリカは質素なベッドに腰掛けていて、開いた扉の方に視線を向けていた。
「何か用?」
彼女から発せられた声は、冷淡で感情がまったく伺えなかった。例えるなら、生きた人形……
それでも男性はめげずに、ユウキを前に出した。
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