Mission0:クレバー・キャッチ

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       風が吹いていた。無味乾燥な風が。こんな何もない街にすら風が吹くのかと男は考える。    昔は教会だったのか。ひび割れ、埃を被ったステンドグラスを尻目に外を窺う。次に向かいに目を向ける。    フードを被り大剣を下げる大柄だが、どこか幼さを残す褐色の少年は気持ち男より外に出ている。その隣では、細身の銃を抱え今か今かと男の指示を待つ女がいた。    街の通りへ目をやる。巨大な生物の死骸を貪る三体の小型の獣が見えた。小型とはいえ死骸と比較した場合の話であり、『彼等』は大の男と同じかそれ以上だった。    しかし三人が眺めるのは『彼等』の奥、死骸と同型の獣。今、新たな獣に気付かず死骸を喰らう『彼等』など、三人にとってハイエナに過ぎず眼中にすらない。悠々と『彼等』に近付く『彼』もそうだろう。    そうして目測7mといったところか。『彼』は跳躍した。『彼等』は向き直る。影で気付いたか。しかし遅い。      そこからはあっという間だった。着地地点の先の哀れな一体は圧死。呆気に取られた一体は『彼』の左前肢で撲殺。壁に叩き付けられ紅い華と化す。逃げかけた一体は後ろから喰らいつかれた。背と腹に牙が食い込む。振り回す。もがいているのか。それてもただ揺れているだけか。それすら判らぬまま裂ける。下半身はそのまま餌に。上半身はびくびく蠢くがすぐに停まる。        圧倒的であった。生物としての格が違う。再認識した男は隣の二人を見る。    女は少し驚いていた。しかし目を逸らしてはいない。問題はない、と男は判断したが確認する。   「やれるか?」 「……ええ、見くびらないで」    頷きつつ、少年を見る。   「――弱い奴は死ぬだけだ。俺達も奴等もな」    こっちもいいだろう。元よりあまり心配はしていないのだ。準備は出来た。意気も充溢している。チャンスは今しかない。踏み出す。   「往くぞ―――」
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