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少年の大剣が肉を裂きつつ地面に突き立つ。獣――ヴァジュラが倒れ伏すのは一瞬の後だった。
「他愛もねぇ」
少年――ソーマは呟き大剣をヴァジュラに向ける。
ず ズ ッ
その瞬間、大剣はその形状を変える。剣の柄から競り出すように黒い獣の頭部が現れる。獣は己より尚暗い『闇』、と呼ぶに相応しい口内を晒しながらヴァジュラにかぶりつく。
「おい、ソーマ。物足りないからって八つ当たりはやめろ。コアが傷付くだろうが」
「フン。そんなヘマ、誰がするか。ちょっとした甘噛みみてぇなモンだろ」
「お前な……と、コイツはレア物だなァ。サカキのオッサンが喜びそうだ」
『神機』に好き放題させるソーマをたしなめた男――雨宮リンドウは、自身も変形させた獲物を引き抜く。取り出した『コア』を眺めて支給されたバッグへ。
「新種のコアなの、リンドウ?私にも見せてよ。私、後衛だから摘出されたばかりのコアって殆ど見た事ないのよ」
「こらこら、サクヤ。まだ遠足の途中だろう?遠足は帰るまでが遠足なんだからな。帰りのヘリでな」
狙撃銃を抱えてリンドウに駆け寄る女――橘サクヤを適当にあしらうリンドウ。ソーマは我関せずの体で街を眺めている。
「あー、お腹空いちゃったな。今日の配給って何だっけ?」
「おー、何か食糧会議で言ってたな……あぁ、品種改良のトウモロコシだったかな」
「えー?アレ食べにくいのよねぇ……そうだ、ソーマ交換しましょうよ」
「断る」
今度はソーマに振るサクヤ。ソーマは面倒そうに応じつつ、きっぱり拒否。リンドウが振り返る。
「おーい、急ぐぞ。こんな所まで来てる迎えを待たせるのも悪いしな。それにこんな世の中だ。食えるだけ有り難いってモンだぞ?」
周りを見渡しても、三人がいるこの街はとても人が住めるとは思えない場所だった。多くの建物は倒壊し、残った建物も大なり小なり穴が穿たれている。
「―――そうよね、ごめんなさい」
「あー、いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだがな……と、いたいた」
ヘリの元に到着すると、パイロットが出迎える。ミッションの終了を伝えるリンドウ。遅れを謝るサクヤ。黙ってヘリに乗り込むソーマ。
三人が自分たちの部隊に新兵が入ると聞いたのは、ヘリが廃街を飛び去った後だった。
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