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物凄いペースで風呂桶を整えて、椅子を軽く洗い綺麗に並べた。
「よし!!整理完了!!入るぞ!!」
「了解した!!」
僕の合図に新城が戦陣を切って湯船に飛び込んだ。
それに続けて僕、桐生、斎藤の順で湯船に入る。
「……っぱぁ!!」
潜っていた新城が水面から顔を上げた。
「超気持ちぃぃー!」
「おいおい、そんなにゆっくり風呂入ってる余裕ないんだぞ!?」
斎藤が苦笑いしながら言った。
「大丈夫!!大丈夫!!次に会うときには俺らの武勇伝たくさん聞かせてやるから!!」
「本当かよ~!?」
新城と斎藤が笑っているところ僕は静かに頭を水面の下に沈めた。
湯の中の不思議な感覚が僕を包んだ。そして閉じた瞳の奥に東風の姿が浮かんだ。
階段から落ちた時の東風。
初めてありがとうって言ってくれた時の東風。
ポテトを食べ最上級に幸せそうな表情をした時の東風。
幼なじみの事を話してくれた時の東風…
入学式で彼女を見てからずっと好きだった。
好きで好きで…でも分かってた。
そんなのは無理だって…
でも、3日前の朝、彼女を助けた時、彼女にありがとうって言われた時、一緒に帰った時、もしかしたらなんて考えたりもした。
(中村君は信頼できる人だと思ったの)
初めて彼女とメールしたときに彼女が僕に送った言葉。
正直かなり嬉しかった。入学式してから全く喋った事のない東風に信頼できるなんて言われたら嬉しくない分けない。
でも、信頼されたが故に知ってしまった事実。
知りたかった事実…
…知りたくなかった事実
東風は幼なじみの事が好きだった…
認めなくてはならない…
でも認めたくないっ!!
葛藤
(苦しい)
苦しいのは息を止めているからではない。彼女を諦めなくてはならない心の衝動…知りたくなかった。
でも、だからこそ…
もう迷わないっ!!
僕は水面を破って重く苦しい世界を飛び出した。
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