道のり

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「夕凪は狭間が見えるんだろ。僕が見る事は可能か?」 どういう風の吹き回しか、素直に望みを述べた。 「恐らく可能だ。これで借りを返せるな」 蝶彩が章来の手首を掴むと物凄い勢いで振り払われた。 声を上擦らせて言う。 「きゅ、急に何するんだ!?」 「数秒だけ手を貸せ。妖力を流す為に必要なのだ。手を通じると流しやすい。少々嫌かもしれぬが、我慢しろ」 「別に…嫌じゃない」 男らしく手を差し出す。俯いた状態だったが。 蝶彩はその手を握り、妖力を流した。己の視覚と相手の視覚を一時的に繋げる事により、認識不能な狭間を彼へ見せられる。 「上を見ろ」 「……あれが、狭間」 瞠目する瞳は揺れ、初めて目にした狭間に衝撃を受け恐怖を抱いた。 幼き頃から少女の瞳に映る世界は恐れと不安だった。 「ひょっとして黒髪、怖いのか?」 青は小刻みに動く少年の手を見てくすっと笑う。 「恐怖を感じて何が悪い!」 震えを無理に抑えて狭間をきっと睨んだまま開き直った。 「恐怖を感ずるのは恥ではない。それを感ずる事を忘れた時こそが恥だ」 「……」 無言で話を聞き、意味を静かに考える。表情は真剣だった。 蝶彩は妖力を流すのをやめ、彼の手を握り締めて離した。 「これで借りは返したぞ」 暗黒の裂け目に此方を窺う、ぎょろりと動く目玉が二つあった。獲物を見定め、気味の悪い目玉はすっと闇に紛れて消えた。
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