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確実に鬼ではない。胸には妙な確信があった。
枝を踏み進む勢いは止まらない。妖の気配は徐々に近くなっていく。
「一人で突っ走るな。蝶彩!」
後方から追って来た青の怒鳴り声が聞こえた。音で枝から枝へ跳び渡っていると安易に予測できる。
「章来と綺羅様は……?」
「大丈夫だ。こっちに向かってる」
章来の気配は感じられるが、千柚の気配は初めて会った時以来感じられない。
「汝は妖退治をするつもりか」
「愚問だな」
どんなに時間が惜しくても妖は放っておけず、逃げ果せる事は可能だが、それでは何の意味もない。
人に危害を加える妖は残らず退治する。
「蝶彩につき合わされる、俺って苦労してるよな。可哀想」
「貴様より私の方が苦労しておる……」
最後に高く跳躍して枝に飛び乗った。息を殺した蝶彩は辺りの様子を窺う。
大木が密集する頂上は禍々しい気に劣らない、強い精気に満ち溢れている。
幼き頃と同然に大木は太く威圧的で、人と妖を拒んでいた。
地には黒い蛙に似た妖が、ちょこまかと飛び跳ねている。体長は優に四十センチメートルを超えていた。
大きな頭と胴は直接繋がり、発達した後肢とやや小さい前肢。
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