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前肢と後肢に四本の指はなく鋭い爪があり、膜状の水かきはなかった。
「蛙擬きか」
「あれを知っておるのか。ふざけた名だな」
「ああ、俺もそう思う。もう一方の妖は初めて見た」
青は空を飛ぶ奇怪な妖を指差した。
巨大な眼球に太長い円筒形の体が繋がっている。大蛇に似た緑色の鱗に覆われ、六本の足、湾曲した掻爪。
「称して大目玉っていうのはどうだ」
「勝手に称さなくてもよい」
「えぇー。結構ぴったりな名だろ」
長い体をうねらせ、自由に飛んでいた。まだ此方の存在には気づいていない。
「先に蛙擬きとやらを片づけるか」
「ちゃちゃと終わらせようぜ。蝶彩ちゃん」
「私にちゃんはいらぬ」
言下に蝶彩は大木から飛び下り地に着地する。懐に忍ばせてあった短刀を抜く。
いつ鬼と出会してもいいように、呪符と妖力は残しておきたい。
この戦いで少女は呪符を使わないと決め、妖力は最小限に抑えるとも決めた。
短刀を構えて疾走する。数体の蛙擬きを一直線に斬り裂く。ぱっくりと斬れた。黒い血が飛び散る。
後肢で跳躍して前肢の鋭い爪で引っ掻こうと狙う。それをかわし、後方から飛びかかってきた一体を踏みつけ、上手い具合に三体を一蹴した。
「俺が全ての動きを封じる」
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