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夜風が吹き荒れる。一斉に木の葉がさざめいた。黒い空には煌めく星の瞬き一つない。辺りは完全な漆黒の闇で覆われている。
少女は一人寂しく、山奥の道で立ち尽くす。手に二輪の小さな花を握り、雰囲気は危うげで尚且つ脆く壊れやすい。
長い藍色の髪は後ろで結われ、吹き続ける無情な風に靡く。少女は狩衣姿で袂が揺れ動いていた。
「冠世(かんせい)様。清輝(せいき)……」
この場所へ来る度に数え切れない程、夕凪蝶彩(ゆうなぎちょうさい)は呟やいた。声音に悲しみと寂しさがあり、辛い気持ちが滲み出ている。
時が経過しても心はぽっかりと穴が空いたままで、決して埋まる事はない。
大切な人を失った悲しみは深い。簡単には癒えなかった。
静寂に包まれたこの地で蝶彩はあの日、起こってしまった過去の出来事へ思いを馳せる。
今にも雨が降り出しそうな天候だった。空気は湿っぽい。風は吹いておらず、灰色の雲が垂れ込める。
頬を紅潮させた、灸清輝は興奮気味に言い募る。
「俺はもう立派な陰陽師だ。妖だって一通り倒せる!なあ、親父。俺は優れた陰陽師だろ」
「自画自賛はよせ、清輝。お前はまだ陰陽師としては半人前だ。いや、半人前以下か……」
清輝の父親である、灸冠世は呆れた視線を送った。表情は厳しい。
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