あの日

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「半人前以下だと」 清輝は鋭い目で父親を睨みつけ、体を湧き上がる怒りで震わす。拳を強く握った。 「悔しいか」 「……」 不敵な笑みを浮かべて冠世が「殴ってみろよ。どうせお前は一発も俺に当てられない」と挑発する。 「クソ親父。お望み通りぼこぼこにしてやる!」 気色ばむ少年は挑発に乗った。雰囲気が殺気立っている。 「やめておけ、清輝」 ずっと静観していた蝶彩が二人の間へ入った。 「冠世様、小童相手に大人気ありません」 「馬鹿息子にはあれくらい、言ってやらんといかんのだ」 腕を組んで仁王立ちをする冠世は、暗褐色の瞳で息子を睨む。形相は恐ろしい鬼のようで、眉間には深い皺が刻まれていた。 「俺は馬鹿息子じゃない。親父、本気で殴るぞ。いいのか、殴って!!いいよな」 拳を振り上げて清輝は正面から突っ込む。 「甘い」 冠世は低い声で呟いた。 正面から突っ込んで清輝が敵うはずがない。指一本たりとも触れられないだろう。 浅く開いた口から吐息が漏れる。素早い所作で蝶彩は少年の背後へ回り込み、腕を掴んで羽交い締めにした。 「離せ、蝶彩」 「貴様は冠世様には敵わない。分かり切った事だ」
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