妖退治

21/21
1677人が本棚に入れています
本棚に追加
/622ページ
「……小賢しい」 蝶彩が何を問い質したいのか、彼は既に察している。面白がって誑かしていた。 白状させるのは可能だが、そんな気にはなれない。 「もうよい」 思わず溜息をついて視線を上へ向けた。夜空を眺める。今宵の満月は妙に赤みがかっていた。 さっと風が吹き、枝葉が揺れた。葉と葉が触れ合い音を発する。 「蝶彩」 誰かが名を呼んだ。記憶の中にあり、耳に残る声だった。空耳かどうかを確かめようと少女は振り返る。 俄に一陣の風が起こり長い髪が靡く。 突如として漆黒の髪を持つ、若い男が目前に現れ立っていた。吹いた風と共にやって来た錯覚を生む。 漆黒の髪と黒い瞳、墨染の着物、喩えるならばまさしく闇のようだ。 慈しむ声で二度目を口にする。 「蝶彩」 流れ陽陰は喜びを満面な笑みとして湛えた。
/622ページ

最初のコメントを投稿しよう!