流れ陽陰現る

8/11
前へ
/622ページ
次へ
「陽陰は陰陽師だ」 そして心中で言い添える。通常とは異なった……。 彼は妖を退治するというより、滅ぼす事に快楽を覚え、欲望を満たし心地よさの境地に浸る。 陽陰が消えた方を眺め、蝶彩は周りを見渡した。 妖の死骸は淀みを生む、放置しておけばこの地は間違いなく穢れる。仮に穢れた場合、人が踏み込めなくなってしまう。浄化を施せば地に清浄と安らぎが齎(もたら)される。 「いつまで私にくっついておるのだ。離れろ」 「だって蝶彩がまだ寂しそうな顔をしてたから。俺がそばにいてやらないと」 笑いを堪えた青が蝶彩の髪を撫でる。 怒気を孕んだ声を上げる前に、章来が長刀を鞘から抜き振り翳した。 「悔しいのか。黒髪」 「うるさい」 長刀を無闇に振り回す攻撃を青は避ける。 「貴様等は戯れが好きなのか」 自分が原因で現在の状況になっているとは知らず、冷めた目で少女は黄色い数珠を親指に掛けた。水晶の数珠は濁りなく透明だ。 「夕凪、僕は式神と戯れていない」 「誰が此奴と戯れているって!!」 章来は長刀を鞘に仕舞い、青が口元を歪め外方を向く。 「この地には浄化が必要だ。私がやろう」 「浄化なら僕がやる」 蝶彩にこれ以上無駄な妖力を使わせたくない。それは紛れもなく章来の本意だ。 その本意を読み取り嬉しく感じたが苦笑する。
/622ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1676人が本棚に入れています
本棚に追加