流れ陽陰現る

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青は邪魔をするなと章来を睨む。 「そう急かすな。承知した」 水晶の数珠を揺らして蝶彩が印を結び始める。 印を結びながら、清輝の事を思い出した。得意分野は穢れを取り除く浄化だった。 「清き光よ。穢れを祓い給え」 懐から呪符を手に取り、口にくわえた。両手の平を打ち鳴らしてふっと息を吐く。 澄んだ光が清き水の如く呪符から流れ出た。青白く眩い光はさっと周囲を覆う。 光に飲み込まれた妖の死骸は忽ち崩れて消滅する。 蝶彩は浄化術を施し、清輝が行ったあの時の呪言と所作を真似た。術は同様でも丸きり同じにはならない。 張り巡らせていた気を漸く解き放ち、安堵の息を吐く。 これで今宵の妖退治は幕を閉じた。 水晶の数珠を首にかけ、ふと視線を夕村が位置する方角へ走らせた。 目に映った光景に息を呑む。 「煙……?」 凄まじい煙が次々と盛んに湧き上がっていた。 「村が…嘘だ。嫌だ」 半狂乱になった少女は駆け出し、透かさず青が腕を掴む。 「どうしたんだ。蝶彩!?」 「燃えている。村がある方角だ。火で、火事だ!」 青と章来は驚く。心の平静を失った、蝶彩を目の当たりにしたからだ。
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