流れ陽陰現る

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力強く掴む手を蝶彩は振り切り、思考が停止した頭で駆け出す。心は狂い乱れて混乱状態に近く、冷静な態度でいられなかった。 「戻って来い!!」 「止まれ、夕凪!」 青と章来の声は届いていない。 少女の後ろ姿が徐々に薄れ、闇へ紛れて消えてしまった。 青は顔を歪め舌打ちする。腹立たしげに黒く闇しかない空を睨んだ。 苛立ちと焦りが入り交じった声音で言い放つ。 「おい、黒髪。汝には煙が見えたか」 章来は静かに首を振って否定を示す。 「どうやら蝶彩は、幻術をかけられたらしい……。あの忌々しい男にな」 怒りを込めて吐き捨てる。陽陰の姿は目に嫌という程焼きついていた。 「僕もお前と同じ意見だが、何で彼奴が夕凪に幻術をかける必要がある?」 「そんな事知るか!今はどうでもいい。蝶彩を捜すぞ」 高く跳躍して枝に着地し、間を置かずまた跳んだ。 幻術に取り込まれた蝶彩の気配は微弱にしか感じない。 「待て式神。慌てるな!」 すぐさま少年が青の後を追う。 鼓動が速い。ただ不安が膨れ上がっていく。こんな気持ちにさせる存在と無常な世で、再び相見えるとは思わなかった。 気をつけろよ……。 青は少女の無事を切に願う。願う事しかできない自分がもどかしかった。
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