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「来るな!」
違う。
「痛い、痛い。苦しいんだ。助けてくれ。蝶彩」
弱々しく手を伸ばす清輝を蝶彩はじっと見つめた。少年の顔が苦痛で歪んでいる。
「また俺を見殺しにするのか」
違う。これは……。
「幻影だ。貴様は清輝ではない!」
熱り立ち鋭い双眸で幻影を睨みつける。
さっと偽りの幻影が崩れ、一際強い風が吹き荒れた。
強い風に少女は目を細めて妖気が漂い始めたのを感じた。次第に濃くなっていく。
「蝶彩」
視線を宙に向け、声が聞こえた方へ呪符を投げつける。とっさの判断で効力は弱いが動き封じを施した。
姿を現す黒髪の男が呪符を握り、忽ち青白い炎に変えた。
ゆったりとした所作で舞い降りる。
「私に幻術をかけたな」
幻術は人の目をくらまし、幻影をつくる。現実には実在しないものをあるように見せ、しない音も感知させてしまう。
蝶彩が見た煙と清輝は幻影だった。
見せられた幻影に夕村が燃えていると、勝手に思い違いをしたのだ。
平静を失い、自身が幻術にかかった事実に気づかず、血で彩られ死んだ、幼き頃の清輝により余計心が乱された。
「漸く気づきましたか」
陽陰は口元に喜色を漂わす。この時をずっと待ち望んでいたようだ。
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