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「蝶彩の頭に手を触れた瞬間に幻術をかけました。時が経てば、術が発動するようにね」
「何ゆえ、私に幻術をかけた」
嬉々とした表情を陽陰は浮かべる。
「知りたいですか?それは…ふふ。ハハハ、アハ、ハハハ、アハハ、ハハ」
こんなに笑い狂った、彼を見たのは初めてだった。戦慄を覚える。
双眸を閉じて不気味に笑い続け次に開いた時、美しい銀色の瞳になっていた。
あの銀色の瞳を蝶彩が忘れるはずがない。
「白妙」
漆黒の髪が白銀に変わり、墨染めの着物から色が消えて真っ白になる。白い羽衣がすっと現れ、腕に纏わりつく。
「本来の姿で会うのはあの時以来だ」
白妙は依然と変わらず、若々しく美しい青年の容姿をしていた。
「白妙か陽陰か、貴様はどちらで呼ばれたい」
蝶彩は不思議と怒りも憎しみも感じていなかった。心は静かで落ち着いて思考し行動できる状態だ。
あれ程までに怒りを感じ、憎悪を燃やした対象が目前にいる。だが、何故か殺したい衝動には駆られない。
眉一つ動かさず白妙の眼差しは無機であった。
「好きな方で呼べばいい」
銀色の双眸がより冷え冷えと見せている。
「私を殺す好機は嫌という程にあったはずだ。どうして殺さなかった」
「始めは殺すつもりだった」
足音を響かせ白妙は歩く。
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