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白色の霜が地表に形成され、雪が降り出す。深々と降る雪はあっと言う間に積もった。辺りを見渡せば、白銀の世界が広がっている
「綺麗な幻術だ」
蝶彩は手を広げ危うげに落下して、儚く溶ける雪を無心に見た。
「やはり、お前は凡人なんかと異なっている」
微苦笑を浮かべ、白妙は立ち止まった。
「我の妖力を自身の物にし、死の呪いまでも解いてしまった。蝶彩に僅かでも興味を抱いたのだ。だから、気まぐれを起した。流れ陽陰として近づいた。人にこんな思い抱いたのはお前だけ……」
白妙は手に白い花弁を出現させ、息を吹きかけた。花弁は宙を舞う。
蝶彩を助けた何ものかがいる事を白妙は知らない。
「いつの日か不思議と楽しくなった。共に過ごす流れゆく時が愛しいとさえ思った」
うっとりと少女を見入る。
「どうやら、貴様も私も同じ時を過ごしすぎたようだ」
二人で過ごした時は幾年も巡った。暖かく穏やかな春、最も暑い夏、木枯らしが吹き始める秋、冷え込む冬。
記憶に刻まれている。
生涯、あの日の光景は記憶から消えず色褪せない。冠世と清輝の命を奪った白妙は断じて許せなかった。
しかし、敵意と憎しみは自分自身が気づかない内に、ゆっくりと日に日に失われていったのかもしれない。
「我が憎いか。以前よりも、強くなった蝶彩なら殺せるだろう。さあ、殺せ……。我はもうこの手でお前を殺せない」
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