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「……白妙。何を申している?」
「お前の手なら殺されても構わない」
蝶彩はただ澄んだ銀色の瞳を眺め、直感的に嘘を言っていないと感じた。底に隠された真意が全く読めず、胸中は惑いに覆われる。
「私は無闇に命を奪わぬ!」
こんな時に白妙が不自然な笑みを零した。
「我の願いは叶えてくれないのか」
手を翳し一刀の刀を出現させた。その刀は白く不透明でまさに雪のようだ。
蝶彩の背後へ回り、喉元へ冷たい刃を突きつけた。
「何の真似だ?」
「戦え」
「断る」
刃を突きつけられても少女は、彼を恐れる所か平然とした態度でいる。恐怖心はどこからも湧いてこないのだ。
「ならば、仕方ない」
突きつけた刃を下ろし、次の瞬間には少女の脇腹を突き刺していた。
激痛が走り、痛みに呻く。生暖かい血が流れた。
狩衣は既に妖の血と自分の血で血みどろになっている。
「戦わないと、徐々に傷が増えていくぞ。お前は無様に死にたいのか」
痛みに苦しみながら笑声を上げた。
「白妙。私を…欺けると、思った、か。二度目は……引っ掛からぬ」
眉を寄せた蝶彩の顔は苦痛に歪んでいた。
偽りは真実や現実の前で意味を無くす。
「これは幻術だろう」
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