再び

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幻術は人の目をくらまし、幻影を見せるだけでなく、快楽、希望、絶望、痛みも苦しみさえ感じさせる。 人を惑わし狂わす、まるで現実のようだ。それ故に幻術にかかっている事実に気づかない時がある。幻か現実にいるのか判断できず、最悪の場合は死す事もある。 幻術は死さえも現実にする恐ろしい術だ。 「さすがにそこまで、愚かではないか」 白妙が柄に力を入れて握ると刀身も脆く砕け散った。 蝶彩の傷口は塞がっていた。塞がっていたと言うより、血も傷口も元から存在していなかった。 偽りの苦痛から解放された少女は口を開く。 「白妙、謂れを申せ。死を望む深い謂れをな」 何がおかしいのか存分に肩を揺らし、腹を抱えて笑い出す。 「ふふふ、アハ、ハハハ。ハハハ。蝶彩、ダメだ……。済まない。自我が保てなくなってきた」 腕がだらりとなり、頭を下げる白妙が動かなくなった。 「おい、白妙」 呼びかけても反応はない。心臓を手で掴まれたような不吉な予感がした。 辺りが奇妙なまでに静まり返っていた。肌がひりつくこの感覚は戦いが始まる緊張感。 やけにゆっくりと顔を上げ、瞳の色は銀から真紅に変化していた。 「血、血、血が欲しい」 苦しげに呻くように囁いた。 蝶彩の脳裏に蘇る。記憶が過去を遡り、あの時、恐ろしかった白妙と重なった。
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