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蝶彩は刀を扱うより、弓の扱いの方が長けていた。弓は至近距離には向かない。射手の腕前があってこそ遠隔で力を発揮する。
よく剣術は冠世に稽古をして貰った。刀剣はどちらとも並に扱える。清輝との刀勝負はいつも蝶彩が、連勝して無敗知らずだった。
一気に距離を詰め、蝶彩の腹部を斬ると見せかけて脛を斬り裂いた。
白妙の剣術は並外れて優れている。人ではない常軌を逸した存在だ。当然かもしれない。
鮮血が流れ、少女は傷口の痛さで片膝をついた。雪が赤い血に染められていく。
荒々しく雪は吹雪いていた。乱れ降る所為で視界が悪くなる一方だった。
幻術でつくられた世界は胸を打つ程美しい。白銀の世界に白妙自身が幻想的に溶け込んでいた。
刀を振り上げた彼の双眸に、蝶彩は映っているが映っていない。
白妙ではなく流れ陽陰として、幾多も刀を交えた事をふと思い出す。
風が荒ぶる日、冷たい雨と肌を刺す雪が降る日さえ付き合い、ひたすら武芸に励んだ。
陽陰は殆ど手加減して一度も本気を見せなかった。それが非常にもどかしく腹立たしかった事を覚えている。
「こんな時に思い出す、私は愚かだな……」
痛む足で立ち上がり、せめても急所は守ろうとした。
白妙の刀を弾き、鋭い剣戟が続いた。
行き成り目前から姿を消した。吹雪く中、辺りを見渡すが姿は確認できない。
荒い息を吐き、刀を構え直す。静寂が流れた。
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