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神経を研ぎ澄ましても、白妙の気配は感じられず、巧妙に隠されている。
何かを視界の端に捉えた瞬間、蝶彩は後ろから頭を蹴り飛ばされ、どさっと雪の地へ倒れた。
術で作った漆黒の刀は音もなく消滅する。
脳が揺れ、平衡感覚が戻らず激痛は凄まじい。
蝶彩は動けなかった。白妙は足を置いて背中を踏みつける。
「……まだ、死ねぬ」
目が霞がかり頭はぐらつく。少しでも油断すると意識を手放しそうになり、背中は押しつける足の重みで痛い。圧迫感が苦しく、体に力が入らなかった。
首に冷たい刃が当てられた。白妙が一振りすれば、確実に蝶彩の首は飛ぶだろう。
奥底から恐怖が湧き起こり、体を駆け巡る。潔く死を受け入れる訳にはいかない。
白妙の手が動き、刀も動く。突然、動きが止まる。刃が首を貫通する事はなかった。
気づけば少女は風を感じ、小脇に抱えられていた。この読みにくい気配は……。
蝶彩を抱える主は翔るように宙を跳ぶ。悠然と着地して地に下ろしてくれた。
青い髪に透き通った、薄い青色の瞳。頬には美しい菊の花の刺青を持つ。白い水干姿の式神。
「苦労したんだぞ。強固な結界を破って、幻術の中へ入り込む荒業。黒髪の手を借りてやっと成功した」
「あれは貴様の術か」
「ああ、どうだ。凄いだろ」
青は不敵に得意の笑みを浮かべた。
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