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白妙の全身は水でできた竜に巻きつかれていた。
体は大蛇のようで一枚一枚鱗があり、四本の足はがっちり掴んでいる。二本のひげに目、耳、牙、角。術でつくられた竜は美しくも勇ましく、そして何より神々しかった。
「暫くはあれで持つな」
印を結び強化する。
「章来は幻術の外か」
「そうだ。黒髪なんかどうでもいいだろ。それよりも、自分の心配をしろよ」
不機嫌顔で蝶彩の額を指で弾いた。
「脇腹と足の怪我、かなり痛そうだな。俺が治してやろうか」
「治さなくてもよい」
歩みを進めると脇腹はずきりとして、足の傷はずきずき脈を打つように痛む。
「蝶彩、止まれ!!」
白妙の方に歩み寄ろとする、少女の腕を青は強引に掴んだ。すぐに手を振り払おうとしたが、力ずくで羽交い締めにされた。
「離せ。私は貴様と戯れている暇などない」
「その怪我で彼奴と戦うのか。やめておけ」
掴む力は強い。動きを封じられていた。
「私は白妙と決着をつけたい」
あの日から蝶彩と白妙の時間はずっと止まったまま歳月だけが経過した。記憶は色褪せる事なく覚えている。
かけがえのない冠世と清輝までも殺され、ただ悲しみに暮れた。生きる希望が見出せず、寂しさと孤独に震えた。
ただ憎しみが募り、自分でもいつしか知らぬ間に失った。
今なら分かる。憎しみは人を歪めてしまう感情だと。
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