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妖退治
今宵の夜空に輝く月は赤みがかった満月だった。闇に包まれた山道を月光が照らしている。時折雲は満月を覆い隠し光を攫った。
闇より更に濃い裂けた空間を眺めた。
「汝は狭間が見えるんだな」
蝶彩に狭間が見えると青は目線で悟ってしまった。
「ああ」
式神も妖と同様に狭間が見える。
妖は狭間を利用してこの世へやって来るが、元から存在する式神は狭間を利用してこの世には来られない。
陰陽師に喚び出されない限り、この世にはやって来る事は不可能だ。
「彼奴と同じか……」
「何か申したか?」
「いいや、何にも」
それを最後として青が口を閉ざした。
相変わらず山道は不自然な程静かで妖は現れもしない。
だが、気配をひしひしと感じた。
冠世と清輝が白妙に殺されてから、ずっと少女は夕村に身を置いていた。
全く余所者を追い出そうとはせず、「ここに居てもいい」と優しく話してくれた村人達に心から感謝している。この恩を絶対に忘れない……。
暫く蝶彩と青は黙々と歩き続けた。
朝は目に鮮やかな緑色をした木々の葉も、夜は闇で黒色に染まっている。
唯一の光は危うげに周辺を照らす月光のみだった。
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