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流れ陽陰現る
「陽陰……」
「あれから久方振りですね。勝手ながら、流浪の旅を終え帰って参りました。お前の気配を感じ取ったので、真っ先にここへ来て正確でした」
茫然自失と立ち尽くす蝶彩を陽陰は抱き締めた。
男が自由を求め、当てのない気儘な流浪の旅に出て半年は経っただろう。こんなに早く帰ってくるとは少しも考えなかった。
安心に包まれ少女もそっと抱き締め返す。優しく頭を撫でてくれた。
「いけ好かない」
章来は不快で気に障る対象を睨みつけた。
「黒髪もそう思うか。初めて意見が合ったな」
鋭い一瞥を与えた。疾うに観察は終えて陽陰と目が合い眉を寄せる。
「本当に嫌な奴」
内から湧き上がる不快とざわつきに顔を歪めた。
「夕凪、この方は誰だ」
章来の表情がいつになく不機嫌だ。
「何ゆえ、貴様は不機嫌なのだ?」
蝶彩が心底不思議そうに問うと少年は、「僕は不機嫌じゃない!」と剥くれて腕を組んだ。
「どことなく貴様は青と似ておるな」
呆れた少女は言い足す。
「そう剥くれるな」
「おい、蝶彩!?此奴と俺のど・こ・が似ているんだ。どっから見ても違うだろ」
眉間に深い皺を寄せて青が不満を早口で捲くし立てた。
「式神と一緒にするな!!」
章来が敵対関係を指差した。
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