序章

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「嫌だ。絶対に無理。」 友広は拒んでいる。その顔は苦しそうだ。どうやらこの気温のせいだけではないらしい。 今朝のニュースでは、昼頃になると非常に暑くなると言っていた。天気予報なんて必ずしも当たるわけではない。 しかし、気象予報士であるお姉さんがモデル並みの美貌を持つからなのか、はたまた予報士としての実力があるからなのかは分からないが、友広を含めたほとんどの生徒はそれに従って半袖のシャツを着て登校した。 朝はまだ涼しかった。いや、むしろ昨夜の大雨で肌寒かったくらいだ。 空も雲に覆われていたし、天気予報を見なかったなら昼頃に晴れるとは誰も思わなかっただろう。 友広は自転車で登校するのだが、坂道などでスピードが出ると非常に寒かった。学校に着いた時には腕も手も指も冷えていた。 自分だけかと思ったが、他の生徒もみな同じ。半袖のシャツを着て自転車登校した者はみんな寒そうだった。 結論から言ってしまえば予報はピタリと的中した。 昼休憩に近づくと雲の間から日が差した。 お弁当を食べる頃には昨夜の雨のせいで悲惨な状態だったグラウンドも、水溜まりがなくなるほどになっていた。クーラーなどない教室では、持参したうちわで扇ぐ生徒もいた。 事はその昼休憩に起きたのだ。 友広の部活仲間である友喜がある提案を持ちかけてきたのだ。 「なぁ友広。もうすぐ夏休みだな。」 「あぁ、そうだね。」 「俺らさぁ、去年は部活めちゃくちゃ頑張ったろ?」 友広は頷いた。 「うん。」 「で、来年は受験勉強ときた。」 「そうだね。」 「チャンスは今年しかないんだよ。」 友広には話がつかめなかった。それが顔に表れていたのだろう、ため息をついて友喜が話を続けた。 「あのな、彼女つくるチャンスは今年の夏休みしかないって言ってんの。」 友広は友喜の言ったことが理解できなかった。 「なんで?別にやろう思えばいつでも作れるじゃん。バレンタインだってあるし。遠いけど。」
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