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   ここまで来ると聞いてて楽しくなってくるな。舌が滑らかに動く女である。 「おおかた、お嬢様の心の広さに付け込み売名や窃盗その他よからぬこと諸々お企みなされてるのでしょうが、どうせ無駄なのでやめておきなさい。このメリッサが目の黒いうちは貴殿を常に監視しております。そして、ここが王家とも近しいエイゼリオスのお屋敷であることを決してお忘れなく」 「うぃー」  どうせ今回の旅行では悪事を働く予定を組んでいなかったので素直に頷く。  このメリッサと流暢に自己紹介したメイドは最後にもフンと鼻を鳴らし、見回り用のランタンを引き下げると律儀に挨拶を唱えた。 「おやすみなさいませ。お早めに立ち去っていただければ幸いです。まあ、お好きにすればよろしいですが。ここは私が手入れを任されている庭園ですので……個人的に不愉快とは申しあげます」 「立ち去るよ」  俺に悪口耐性が無かったら悲しくて泣いちゃってたかもね。ここまで鍛えてくれたアルトに感謝しなければなー。  それから、渡り廊下を経て屋内に戻ると季節の空気が若干モワっとしていることを思い出した。あちーのだ。  確か、今は真夏である。  確か、というのも告白すると今夜は多少酒を飲んでのホロ酔い加減なので、無意味な言葉で装飾したくなる時もある。  確か、ここはシャムとジュードの実家。そして確か、今度ゴーレムレースというイベントがある。なんだかベッドに潜ればすぐに寝れそうな気がする。今まで気付かなかったが思ったより酒が回っているのかもしれない。  さっき確か、メリッサというメイドと会った気がする。  こればかりは確証が持てん。  だってな、あんな態度の悪い使用人が存在するなんていささか信じがたかった。  彼女は夏の夜に俺が見た夢である。  確か。  いや、ないな。  朝を迎えても消え失せない確然たる事実だ。  俺たちは今、王都にいる。    
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