ハッピーキングダム

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   まずは昨晩の話を少し。  エイゼリオス邸、一日目の夜。  夕食時のことだ。  何よりも特筆すべきことは、大貴族の屋敷で出される食事に俺たち超庶民派戦隊が預かれるという衝撃の事実についてだ。卑屈で悪いな。干し肉うめえよ。  実を言うとこの日の昼頃にも、港街に凶暴なリモートゴーレムが現れて、それをセイが撃退した暁に助けた高級料理店のシェフ長が俺たちに昼食をご馳走をしてくれた挿話があったのだけど、しかしあの時の店内はゴーレムによって半壊状態にあったため、ちっともリッチな気分を味わえなかった。料理の方は絶品だったがな。  一方たるエイゼリオス邸の夕食では、空間からしてロイヤリティに溢れていた。  縦に見ると、テーブルが長いんだよな。マジで。この世にまさかハルでも跳び越せない長さのテーブルがあるなんて。いっぱいあるか。やや運動音痴のきらいがあるセイならば確実にボールを投げても向こうに届くまいよ。  しかし、「運動×」でも、知識の多いお子様魔王は、紙ナプキンを前掛けにして無表情で偉そうに笑っている。両手にあるナイフとフォークを卓上に起立させつつ、 「ふふ。クロンは論外として、ハルやアルトも《ていぶるまなー》には疎かろう。不安なことがあれば私になんなりと聞くが良いぞ」  こいつも十五世界じゃそれなりにお嬢様な生活を送ってたのだろうか? 或いは例のごとく他の世界を客観視したことから得た、まるで実体験に基づかない自信の可能性もある。  俺は論外に置かれてしまったので傍観態勢でいるが、まず、ハルはそもそも屋敷の食卓に着いて早々に旅の疲れか居眠りしている状態だった。座る姿勢こそいいが、首ががっくり落ちて、セイの話をまるで聞いちゃいない。  そして、仕切り屋ホワイトの頼もしい言葉に、もう一人であるアルトはお屋敷だろうが関係なくテーブルに頬杖をつき、煙たげな目を返している。 「マナー? 破れば犯罪になるの、それ?」  屁理屈を言い出した。おかしなこともあるものだ。セイに対しては気持ち悪いくらい優しいアルトには珍しく、ひょっとしたらこういう席があまり好きじゃないのかもしれない。  思わぬ少年の返しに、セイは意表を突かれた顔を浮かべたあと、 「む。倫理観ではなく礼節観念の問題なのだ。礼を踏まえて己の価値を高めるという人間味の話だ」  
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